ピックルボールは「気軽に楽しめるスポーツ」と言われますが、
実際の試合がどんな流れで進んでいるのかは、意外と知られていません。
サーブは本当に有利なの?
ラリーは何球くらい続くの?
どんなショットでポイントが決まりやすいの?
こうした“試合の中身”を数字で示してくれる情報って、実はあまりないんです。
そこで今回紹介するのが、
PPAツアーの男子シングルスを徹底的に分析した本格的な研究です。
対象となったのは、PPAツアーの
- 5大会分の準決勝・決勝
- 全15試合
- 合計1,145ポイント
という大規模なデータセット。
この研究では各ポイントを細かく分類しながら、
- サーブの有利・不利
- ラリーの長さ
- どのゾーンでポイントが決まりやすいか
- どんなショットが試合を動かすのか
といった男子シングルスの“リアルな試合パターン”を明らかにしています。
この記事では、その研究の結果をわかりやすくまとめながら、
「男子シングルスってこういうスポーツなんだ!」と実感できるポイントを解説していきます。
サーブは“そこまで有利じゃない”──レシーブ側がポイントを多く取る
まず最初に気になる「サーブは有利なの?」という疑問。
研究データを見ると、男子シングルスでは…
- サーブ側のポイント獲得:46.6%
- レシーブ側のポイント獲得:53.4%
という結果になっています。
これは“サーブゲームをキープする”ことが前提のテニスとは大きく違う特徴です。
ピックルボール男子シングルスの場合は、
- レシーブ側がやや優勢
- サーブが試合の主導権を握るとは限らない
という構図になっています。
さらにサーブミス(フォルト)は わずか 2.4% と非常に少なく、
- 「入れること」が前提
- でも「入れても有利にならない」ことが多い
という、独特の傾向が見えてきます。
つまり男子シングルスでは、
サーブは“試合の主導権を握る武器”というより、
まずプレーを始めるための一手に近い
ということが、データから読み取れるのです。

ラリーは“短め~中くらい”が中心──9球以上のロングラリーは少数派
男子シングルスの試合では、「どれくらいラリーが続くのか?」という点も細かく分析されています。
その結果、ラリーの長さは次のように分類されました。
- 短いラリー:1〜4ショット → 43%
- 中くらいのラリー:5〜8ショット → 44%
- 長いラリー:9ショット以上 → 13%
数字を見ると、男子シングルスでは
8ショット以内で決着するラリーが全体の87%
つまり、
“延々と打ち合いが続く” というより、
テンポよくポイントが動くスポーツ、というイメージが近いです。
✔ テニスのように「ほとんどが短いラリー」でもない
✔ パデルのように「10ショット以上が当たり前」でもない
ピックルボール男子シングルスは、ちょうどその “中間” のようなラリー構造を持っています。
「ほどよく続くけど、長すぎない」──絶妙なテンポ感
これが男子シングルスの特徴と言えるでしょう。

ポイントが決まりやすいのは「ネットすぐ後ろ」と「ベースラインより後ろ」
研究では、コートをいくつかの位置に分けて
「どこから打ったボールでポイントが決まったのか?」
を調べています。
すると男子シングルスでは、
特に 2つの場所 がポイント決着の中心になっていました。

① ネットのすぐ後ろ(ミドルエリア)がいちばん多い【50.7%】
いちばん決着が多かったのは…
👉 ノンボレーラインのすぐ後ろ(ネットのすぐ後ろのエリア)
ここから最後のショットが打たれた割合は 全体の50.7%。
つまり、
ポイントの半分はネットに近い位置で終わっている
ということです。
ネットに寄ることで…
- 角度をつけやすい
- チャンスボールになりやすい
- 相手の時間を削れる
などの理由から、ここが最大の勝負どころになっているのが分かります。
② ベースラインより後ろ(ディープエリア)も決着が多い
2番目にポイントが決まりやすいのが、
👉 ベースラインよりもさらに後ろ(深い位置)
ここでもサーブ側・レシーブ側のどちらも
ミスを誘ったり、深い球で押し込んだりして決着する 場面が多く見られました。
つまり、
- ネット近くの“攻め”の決着
- 後方から深い球で“守りながら誘う”決着
このどちらも男子シングルスでは重要だということです。
男子シングルスは「前と後ろ」を行ったり来たりするスポーツ
テニスのように
「ほぼベースラインから決まる」というわけでもなく、
パデルのように
「ほぼネット際で決まる」というわけでもなく、
男子シングルスはその中間に位置する
💡 “前後を使い分ける戦い方” が特徴的です。
約6割は“ミスで決まる”──男子シングルスでもエラーが勝敗を左右
この研究では、ポイントがどうやって終わったのかも詳しく調べています。
その中で特に目立ったのが “ミスで終わるポイントの多さ” です。
▼ ポイントの終わり方(男子シングルス)
- アンフォーストエラー(自分のミス):58%
- ウィナー・攻撃ショットで決着:42%
つまり男子シングルスも、
「強烈な一撃で決まる」というより
“どこでミスが出るか” が試合の分かれ目になる
という流れが主流です。
どんなミスが多いの?
論文のデータでは、
- サーバー側のミスのほうがやや多い(32.9%)
- 特に “短いラリー” ではサーブ側のミスで終わりやすい
と示されています。
一方でレシーブ側は、
- 中くらいのラリー(5〜8ショット)に入るとウィナーが増える
という特徴があり、
レシーブ側が主導権を握る時間帯があることもわかります。
浮かび上がる “役割パターン”
研究データをまとめると、こうなります👇
▶ サーブ側
- 短いラリーなら有利
- 逆に長く続くとミスしやすい
▶ レシーブ側
- 5〜8ショットあたりの “中ラリー” で攻撃チャンスが増える
- ウィナーが最も出やすい時間帯
つまり、
サーブ側は早めに決めたい。
レシーブ側は少し粘ると一気に流れが来る。
という “役割のクセ” がデータとして見えてきます。

よく使われる“決め球”はストローク+ボレーの両軸
では「どんなショットでポイントが決まりやすいのか?」という部分。
研究の結果、男子シングルスでは
ストロークとボレーがどちらも重要な決め球 になっていることが分かりました。
具体的には、最後のショットの内訳はこうです👇
- フォアハンド:34%(最も多い)
- バックハンド:22%
- フォアボレー:18%
- バックボレー:21%
つまり、
後ろから打つストローク でも、
前に詰めて決めるボレー でも、
試合が終わるケースが多い。
これはテニスやパデルと比べても“ちょうど中間”の特徴です。
✔ テニス
ほとんどが後方のストロークで決着
✔ パデル
ネット際のボレー・スマッシュが中心
✔ ピックルボール男子シングルス
ストロークも、ボレーも、両方できないと勝てない。
後ろで打ち合いながらチャンスがあれば一気に前へ。
その切り替えがポイント奪取の大きなカギになっています。
研究から見える「男子シングルスの本質」
今回紹介した男子シングルスの研究は、
「試合の中で何が本当に起きているのか」を、数字で見せてくれる貴重なデータでした。
ラリーの多くは 8ショット以内で決着し、
短い展開ではサーバーが先に主導権を握りやすい。
一方で、5〜8ショットあたりの“中盤”に入ると、
レシーブ側が攻めに転じやすい流れもありました。
そしてポイントの多くは、
・ネットに近い位置
・ベースラインより後方の深い位置
この2つの“前後のエリア”で決まりやすく、
さらに決め球として最も使われていたのはフォアとバックのストローク、
ネットに近ければボレーも強力な武器になっていることが分かりました。
つまり男子シングルスは、
「ストロークとボレーを行き来しながら、短中ラリーをどう組み立てるか」
ここが勝敗のカギを握るスポーツだということです。
こうしたデータを知っておくと、練習のポイントもクリアになります。
- 短い展開で仕留めるための“最初の1〜3球”の質を上げること
- 中盤の5〜8ショット目はミスを抑えながら、攻めに転じる準備をすること
- ネット近くでのボレー力と、後方からの深いストロークの両方を磨くこと
この3つを意識するだけでも、
今日の試合が少し違って見えるはずです。
ピックルボールは気軽に楽しめるスポーツですが、
数字で見ると本当に戦略的で奥が深い世界が広がっています。
データを味方に、次の1ポイントをもっと楽しく、もっと賢く。
あなたのピックルボールが、今日からまた一段と成長しますように。
出典
Notational Analysis of Men’s Singles Pickleball: Game Patterns and Competitive Strategies
Applied Sciences, 2024 / MDPI
📎 https://www.mdpi.com/2076-3417/14/19/8724
