車いすピックルボールは、テンポよくラリーが続きやすく、自然と会話も生まれやすいスポーツです。海外の地域プログラムでも、「楽しく体を動かしながら、人とつながれる活動」として紹介されることがあります。
海外では、最初から“できる・できない”で線を引くよりも、どうすれば同じコートで一緒に楽しめるかを考える流れが育ってきました。
そこで使われる言葉が2つあります。
Adaptive Pickleball(アダプティブ・ピックルボール):
車いす利用者や障がいのある人も、無理なく参加できるように、ルール(場合によっては用具の扱い)を必要な範囲で工夫したピックルボール。
Wheelchair Pickleball(車いすピックルボール):
Adaptive Pickleballの中でも、車いすでプレーするスタイルのこと。車いす側は「2回バウンドまでOK」など、いくつかのルールの工夫が入ります。
https://usapickleball.org/adaptive/
大がかりな設備が必要なわけではありません。
ピックルボール自体はそのままに、ほんの少し工夫することで、同じゲームとして成立する形が整えられています。
このあと、海外ではどんな形で広がっているのか、そして車いすピックルボールのルールはどこがポイントなのかを、わかりやすくまとめます。
アメリカでは「アダプティブ」が広がるための動きが、ちゃんと進んでいる
アメリカの競技団体 USA Pickleball は、車いすを使う人や障がいのある人も参加できる形として、アダプティブ・ピックルボール(車いすピックルボール)を紹介しています。
USA Pickleballが説明しているのは、ざっくり言うとこういうことです。
車いすを使う人や障がいのある人が、参加しやすく、競技としても成り立つように、ルールや用具の扱いを一部工夫する——それがアダプティブ・ピックルボール。
さらにUSA Pickleballは、全国の取り組みをつなげるために、各地で行われているプログラムの情報を集める呼びかけもしています。すでに活動している人も、これから関わりたい人も、短いフォームに記入すると、集まった情報をまとめた一覧に載る仕組みです。その一覧は、USA Pickleballのアンバサダーや主催者、地域で活動を支える人たちと共有し、取り組みを見つけやすくする目的があります。
そして、ルールの工夫として分かりやすい例がこれです。
車いすのプレーヤーは、ボールが2回バウンドするまで返球してOK。3回目のバウンドになるとフォルトになります。
この「2回バウンドまでOK」があることで、動き方の条件が違ってもラリーが続きやすくなり、同じゲームとして成立しやすくなります。
さらに、車いすピックルボールでは「車いすは身体の一部」として扱う、という考え方も示されています。手や足と同じように、車いすが触れたかどうかが判定に関わる、という整理です。
サーブのときは、後輪がベースラインより後ろにあり、コートのサイドラインとセンターラインの“延長線”の内側に収まっている必要があります。
また、ノンボレーゾーン(キッチン)では、ボレー時に前輪がゾーン内に触れるのは問題ありませんが、後輪は完全にゾーンの外に出ている状態で返球する、というルールが置かれています。
コートの広さについても、車いすでのプレーを想定した目安が示されています。
車いすプレー向けとして挙げられているのは、幅およそ13.4メートル × 長さおよそ22.6メートル。
観客席のあるような大きな試合では、幅およそ15.2メートル × 長さおよそ24.4メートルとされています。
https://usapickleball.org/adaptive/
「広がり」を感じさせるのは、自治体レベルでの動き
海外の動きで分かりやすいのは、車いすの人や障がいのある人向けのピックルボールが、市や町の公式ページに“プログラム”として載っている例がいくつもあることです。
ここでは、実際に自治体のページで確認できる3つの例を紹介します。
フロリダ州 Palm Beach Gardens(パームビーチ・ガーデンズ)
市の公式ページに「Adaptive Pickleball Programs」として案内があります。
開催日・時間・場所・料金など、参加に必要な情報がまとまっていて、「気になったらすぐ予定に入れられる」タイプの内容になっています。
https://www.pbgfl.gov/1309/Adaptive-Pickleball-Programs
ニューハンプシャー州 Exeter(エクセター)
町の公式ページに「Adaptive Pickleball」の案内があります。
説明には、支援団体の協力により スポーツ用の車いす4台、ピックルボール発射機、専用グリップを用意すること、また 見えやすいピンク色のボールを使い、ボランティアが参加者のペースに合わせて教えたり一緒にプレーしたりすることが書かれています。
https://www.exeternh.gov/recreation/2025-adaptive-pickleball
ネバダ州 Reno(リノ)
市の公式ページに、障がいのある人向けの運動プログラム一覧があります。
その一覧の中に、車いすピックルボール(Wheelchair Pickleball)が項目として載っています。

イギリスでは「どう運営するか」まで、手順としてまとまっている
イギリスの Pickleball England は、車いすの人や障がいのある人も参加しやすい形でピックルボールを行うための、団体・主催者向け手引き(PDF)を出しています。
この手引きが分かりやすいのは、気持ちの話だけで終わらず、「現場で何を決めればいいか」が順番に書かれているところです。
たとえば最初に、活動の形を大きく4つに分けています。
- ルールは変えずに遊ぶ
- ルールを少し変えて一緒に遊ぶ
- 近いレベル同士で分けて遊ぶ
- 条件を決めて遊ぶ(車いす、年齢など)
次に、想定される参加者の例を「困りごと別」に並べています。
車いす、上半身・下半身の制限、目が見えにくい、耳が聞こえにくい、学習面で配慮が必要、発達特性がある、などです。
そして「一緒にプレーするときの注意」も具体的です。
ボール拾いの手助け、待つ時間を長めに取る、作戦説明のしかた、得点の合図を手のサインにする、ボールの色を変える――など、運営側がその場で実行できる工夫の例が挙げられています。
最後に、USA Pickleballのルールの項目番号も参照しながら、補助具の扱いなど、試合運営で迷いやすい点にも触れています。

日本にも、同じ方向を向いた動きがある
海外の話を読んだあとだと、「じゃあ日本はどうなんだろう?」が気になってきますよね。
日本にも、同じ方向を向いた動きがあります。
それが、日本パラピックルボール協会です。公式プロフィールでは、2025年1月1日に設立と書かれています。
https://j-ppa.org/profile
この協会のページでまず目に入るのが、
「楽しさに、バリアはない。」という言葉です。
“できる/できない”を先に決めるのではなく、どうすれば一緒に楽しめるかを大切にしたい。そんな考え方が、短い一文にまとまっています。
そして、このページは「想い」だけで終わっていません。
協会としての形(規約や活動内容)が書かれていて、何をする団体なのかが分かるようになっています。
たとえば、規約の「活動内容」には、次のような項目が並んでいます。
- 初めての人に向けた体験の場(体験会など)
- 経験者が上達していくための場(大会や講習会など)
- 交流の場(国際交流イベント、クラブ交流会など)
「参加の入口」から「続ける場」まで、どういう活動をしていくかが文章で示されています。
日本でも、パラピックルボールを広げていくための土台が、少しずつ整い始めています。
「みんなで楽しめるようにする」って、言うのは簡単だけど、続けるのは難しいと思います。
だからこそ、ルールが整理され、自治体がプログラムとして載せ、運営の手引きが作られていることに意味があると思いました。形があるから、参加しやすくなる。形があるから、続けやすくなる。日本でも団体が立ち上がった今、ここから先は“誰かの好意”ではなく、“仕組み”として広がっていってほしい——そんなふうに感じます。
