日本の大学では、時期によって「みんなで集まれる遊び」や「キャンパスの空気に合うもの」が入れ替わってきました。2000年代はフットサル、2010年代は人狼ゲーム、2019年前後はタピオカ──みたいに、流行は違っても共通しているのは「参加しやすくて、場ができる」こと。
そして今、アメリカの大学でその役割に近い形で存在感を増しているのがピックルボールです。Inside Higher Edの報道では、大学がコートを整備したり、学生がクラブを作ったりする動きが紹介されています。
日本では、ピックルボールはまだ「知ってる人は知ってる」くらいの距離感かもしれません。でもアメリカの大学では、この競技がいま、学生の間で“集まる理由”になっています。
運動のためだけじゃない。「初対面でも混ざれる」「会話が生まれる」「続けやすい」——そんな要素がそろっているからこそ、キャンパスの中で広がっていった背景があります。
この記事では、Inside Higher Edが紹介している事例や数字をもとに、「なぜ大学生に刺さったのか」をご紹介します。
最後に、日本の教育や学内活動に当てはめるなら、どこがヒントになりそうかも整理していきます。
まず数字が強い。「若者のスポーツ」になり始めている
まず押さえておきたいのが、数字です。
ピックルボールはアメリカで最も成長しているスポーツの一つとされ、ここ3年で競技人口が大きく増えました。年齢層を問わず参加者が増える中、25〜35歳の若年層が約230万人と、いま最も多い層になっています。
「上手くなりたい」「勝ちたい」「つながりたい」——動機が分かりやすい
Inside Higher Edの記事では、大学生の関心を研究している教員の話として、学生が求めているものは大きく3つに整理できると紹介されています。
「何かのスキルを身につけたい」、「ゲームに勝ちたい」、そして 「人とつながって交流したい」。
ピックルボールは、この3つの動機と噛み合いやすいスポーツとして語られています。
コートはテニスより小さめで、ルールも比較的シンプル。道具も揃えやすく、ダブルスで遊ぶことが多いので、初めての人でも混ざりやすい。結果として、プレーしながら自然に会話が生まれやすく、人が集まりやすいスポーツです。
大学側も本気。コートを作る学校が増えている
学生側の関心が高まると、大学も動きます。Inside Higher Edの記事では、ピックルボールの人気を受けて、コートを新しく作ったり、既存施設を改修・増設したりする大学が増えていることが紹介されています。
具体例として挙げられているのが、アラバマ大学です。同校では、およそ160万ドルをかけて10面のピックルボールコートを整備しました。学生の利用を前提にした、かなり本格的な投資と言えます。
もう少し“キャンパスの空気”が伝わる話として、ライト州立大学の例も分かりやすいです。
駐車場の一角に、学生・教職員が使えるコートが2面新設されました。
この大学は、あまり使われていなかった駐車場スペースを活用することで、掘削やコンクリート工事の負担を減らし、建設コストを半分に抑えたとも説明しています。さらに、学内の窓口でラケットとボールの貸し出しがあることも案内されています。
「学生が集まるから場所を用意する」「場所ができるから、さらに人が集まる」——アメリカの大学では、そんな流れが実際に動き始めています。
「運動したいけど、しんどいのは嫌」——学生の本音に刺さっている
Inside Higher Edの記事では、College Pulseの学生調査として、
「もっと運動したい」大学生が57%、「もっと外で過ごしたい」大学生が43% という数字が紹介されています。
さらに、キャンパスを良くする案として「健康や運動に関わる施設・授業」を挙げた学生がいることも触れられています。
ここから分かるのは、学生の側に「今の生活を少し変えたい」という気持ちがあること。
ただ、いきなり“ガチの運動”に踏み込むのはハードルが高い人も多い。
そこで、ピックルボールの出番になります。
体を動かしつつ、友達と一緒にやりやすくて、初めてでも混ざりやすい。
「運動したい」と「気軽に続けたい」を両方叶えやすいから、キャンパスの中で広がっていったのかもしれません。
クラブが「居場所」になる。全国で大学クラブが増えている
ピックルボールの広がりは、コートの数だけにとどまりません。大学の中では、クラブ活動として動きが出てきています。
USA Pickleballは、全米の大学クラブをまとめた一覧ページを用意していて、「どの大学にクラブがあるか」を探せるようになっています。
https://usapickleball.org/collegiate/
規模感が分かる例も。例えば、フロリダ大学のクラブは2024年時点で400人超、コーネル大学のクラブは週に200人規模で活動している、という情報が紹介されてます。
そして、クラブが続く理由は大会など「集まるきっかけ」があること。
ウィッティア大学では、学内リーグの初回開催日に多くの学生が集まり、試合が行われました。2日間のトーナメントのあとも、学期を通して、すべての学生が参加できる対戦が続くそうです。
研究の話も少しだけ。「気分」と「楽しさ」に関する報告が出ている
大学の授業の中で、ピックルボールの影響について行った研究があります。その研究では、参加者の 活力(元気さ) や 「人と一緒にやる楽しさ」 が高まった、という結果が出ています。
運動が心と体にいいのは広く知られていますが、ピックルボールは “人と一緒に動ける” ところが強みになりやすい、とも考えられます。
もちろん、これだけで「だから大学生に流行る」と決めつけることはできません。
でも、ピックルボールが“運動”だけでなく“気分”や“楽しさ”の面でもプラスになり得る、というヒントにはなります。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12452660/
日本の教育には:流行より先に、“場”を作れるか
アメリカの大学で起きていることを見ていると、ピックルボールの主役は「競技」よりも「場」なんだなと感じます。上手い人だけが集まる場所ではなく、初めての人が混ざっても空気が壊れにくい。だから、授業にも、サークルにも、学内イベントにも入り込める余地がある。
日本の教育現場で考えると、ここが一番の分かれ道になりそうです。
ピックルボールを「運動の種目」として扱うのか、それとも「人が集まる理由」として育てるのか。
授業なら、上達を急がず「まず同じコートに立つ」ことをゴールにしていい。
サークルなら、勝ち負けより「今日も来たくなる空気」を優先していい。
学内イベントなら、ルールを知らなくても参加できる入口を用意していい。
そうやって、うまい・下手の前に“参加しやすさ”を整えられたとき、ピックルボールは日本でも「続く運動の入口」になり得ると思います。
流行かどうかより先に、まず大事なのは「また来たい」と思える場を作れるかです。
