アメリカではここ数年、ピックルボール人気の拡大が大きな話題になっています。
コートが増え、参加者が増え、「テニスを上回る勢いで広がっているスポーツ」として紹介される場面もあります。
そうなると気になるのが、
「テニスとピックルボールって、やっぱり対立しているの?」
という話。
実際、アメリカの報道を見ていくと、テニス界がピックルボールの急成長に危機感を持っている様子はたしかにあります。
ただ一方で、テニスの参加者数そのものは減っているわけではなく、むしろ増えているというデータが出ています。
今回は、AP通信の2本の記事をもとに、
アメリカでいま起きている「テニスvsピックルボール」の空気感を整理してみます。
ピックルボール人気に、テニス界が警戒しているのは事実
2024年8月のAP通信の記事では、アメリカテニス協会(USTA)のブライアン・ヘインライン会長が、ピックルボールの急成長に対する懸念を率直に語っています。
記事では、ピックルボールの参加者数がこの3年間で223%増となり、アメリカ国内で1,360万人に達したと紹介されています。※2024年8月時点
その勢いの中で、テニス界が特に問題視しているのが、テニスコートの一部がピックルボール用に転用されたり、置き換えられたりしていることです。
ヘインライン氏は、ピックルボールの広がりがテニスの「インフラ」にまで及んでいることに懸念を示し、多くのピックルボール支持者がテニスコートを必要としてきた流れに言及しています。
でも、テニス人口は減っていなかった
2025年2月のAP通信の記事では、全米テニス協会(USTA)が2024年のアメリカのテニス参加者数について、2,570万人に達したと発表したことが紹介されています。
これは2023年の2,380万人から190万人増で、8%増加。しかも、テニス人口の増加は5年連続だとされています。
この数字を見ると、アメリカではラケットスポーツ全体への関心が高まっているように見えます😊
USTAは2035年までにアメリカ国内のテニス参加者を3,500万人まで増やす目標を掲げていて、そのために2025年には1,000万ドルの助成金を投じ、コートの新設や改修、利用時間の延長を支援するとしています。

“対立”はある。でも、それだけではない
では、やはりテニスとピックルボールは対立しているのでしょうか。
この点については、AP通信の記事の中でも少し温度差があります。
テニス界の一部には、ピックルボールに対してかなり強い警戒感があります。
コートの問題、音の問題、そして「テニスの場所が削られていくのではないか」という不安は、たしかに現実のものです。
一方で、USA Pickleball のCEOであるマイク・ニーリー氏は、
「どちらか一方である必要も、競争である必要もない」
という考えを示しています。
また、アメリカのトップテニスプレイヤー、テイラー・フリッツ氏も、テニス界にはピックルボールを強く嫌う人がいるとしながら、自身は「特に問題を感じていない」と語り、「両方が共存できない理由はない」と話しています。
参入のしやすさが、ピックルボール人気の背景にある
AP通信の記事では、スポーツ&フィットネス産業協会(SFIA)の見方として、ピックルボールがここまで広がった理由にも触れられています。
その中で特に印象的なのが、ピックルボールは始めるハードルがとても低いという点です。
記事では、用具が比較的手ごろで、私道のような場所でもプレーできるなど、始めやすさが強みだと紹介されています。
さらに、年齢やレベルが違っていても一緒にゲームを楽しみやすく、1回か2回やるだけでも「楽しい」「自分にもできそう」と感じやすいことが、人気の背景にあるとされています。
一方で、テニスは上達までにある程度の練習期間が必要で、体力面の負担もあり、競争力のある試合をするには近いレベルの相手を見つける必要があることが多いとも説明されています。
AP通信の記事では、こうした違いを踏まえながら、ピックルボールは“まずやってみる”までの距離が近いスポーツとして紹介されています。

テニス界も、“入りやすさ”を意識し始めている
USTAは、テニスの入り口をやさしくする動きも進めています。
そのひとつが「レッドボールテニス」です。
これは、通常のテニスより短いコートで、やわらかめの赤いボールを使って始めるテニスです。
いきなりフルサイズのコートや通常のボールで始めるのではなく、まずはラリーしやすい形から入ってもらおうという考え方に近いようです。
AP通信の記事では、USTAがこのレッドボールテニスを全国400以上のパイロットプログラムで広げようとしていると紹介されています。
さらに記事では、そのレッドボールテニスを試す場として、ピックルボールコートが短いコートとしてちょうどよいという考え方も紹介されています。
編集後記
今アメリカで起きているのは、
「テニスvsピックルボール」という単純な対立というより、急成長する新しいスポーツと、すでに根づいている大きなスポーツが、同じ場所の中でどう共存していくかを探っている状態に近いのかもしれません。
この話は、日本にとっても無関係ではなさそうです。
日本でもピックルボールは少しずつ広がっていて、これからさらにプレーヤーが増えていけば、
「どこでプレーするのか」
「既存のコートや施設をどう使っていくのか」
といった話は、きっと出てくるはずです。
そのとき大事なのは、どちらかを敵のように見ることではなく、それぞれのスポーツの魅力や役割をどう生かしていくか、という視点なのかもしれません。
参考
AP:Does American tennis have a pickleball problem?
https://apnews.com/article/tennis-pickleball-us-open-6a95ff52e3646f2dc4d5ddcca9168d94
AP:Tennis participation grows to more than 25M players in the US even as pickleball’s popularity surges
https://apnews.com/article/tennis-participation-pickleball-438acbb3f86996e912055bc5896fd813
