第1〜3回では、
を見てきました。
ここまでで分かったのは──
ピックルボールは想像以上に音が響くため、
コートづくりの段階から“音への配慮”を入れておかないと、後でトラブルになりやすい。
という、とても現実的なポイントです。
海外ではすでに、
「時間制限」「静音パドルの義務化」「コート撤去」「移転」など、
音が原因で大きな対応を迫られた例が数多く出ています。
だからこそ今回は、いよいよ 日本の話。
- 公園にコートを作りたい自治体
- 体育館でピックルボールを導入したい管理者
- 倉庫や自前スペースでコートを作る人
- サークル主催者・イベント運営者
こうした “日本でコートを運用する側の人” が今日から使えるよう、
実践チェックリストと掲示テンプレ集 をまとめました。
日本の住宅事情・公園事情に合わせた「現実的な対策」だけを厳選しています。
1. 日本ならではの前提を確認しておきたい
日本では「距離」や「建物構造」を柔軟に変えることが難しいため、
“運用ルールとしての対策”が特に重要です。
🔸 日本の特徴①:住宅がとても近い
公園・学校・市民体育館の多くが住宅街に隣接しています。
海外のように「50m〜100m離す」といった対策は、そもそも現実的に不可能。
→ 距離が取れない=用具・時間・配置で調整する必要がある。
🔸 日本の特徴②:体育館は“外には漏れにくいが、中で響く”
日本の体育館は構造的に、
- 床が硬い(反射音が大きい)
- 天井が高い(反響が広がる)
- 壁材が固い(吸音しにくい)
ため、
「外より中が響きやすい」という性質があります。
▶ 東洋大学 工業技術研究所の報告書
体育館などの大空間では残響時間が長く、音が響きやすい構造であると指摘。📄https://toyo.repo.nii.ac.jp/record/9841/files/kogyogijutsu38_059-064.pdf
→ 屋内は「響かせない工夫」が必要。吸音は少量でも効果的。
🔸 日本の特徴③:他スポーツでも“音トラブル”が発生している
スポーツ施設の騒音は日本では珍しくなく、
- 利用時間の短縮
- 防音材の追加
- コート配置変更
- 住民説明の義務化
といった対策が実際に行われています。
例▶ スポーツ施設の騒音が裁判になった事例
スポーツセンター騒音事件(さいたま地裁熊谷支部)
住民が「ボール音・声などの騒音」で損害賠償を求めた裁判例。
※結論は“受忍限度内”だが、「騒音が争点になった」実例。📄 https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9284760_po_201200562.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
→ ピックルボールでも同様の構造でトラブルが起きやすい。
2. 音の対策は「4つの引き出し」から組み合わせる
日本では“距離”や“建物の形”を変えるのが難しいため、
以下4つを状況に合わせて混ぜて使うのが最も現実的です。
A. 用具で静かにする(もっとも導入しやすい)
- 静音パドルや静音ボールの使用を”推奨”からはじめる
- 早朝・夜間だけ静音用具限定
- サークルが静音パドルを常備レンタル
→ 構造をいじらず最も手軽に音を下げられる。唯一の方法。
※海外の静音用具一覧
https://equipment.usapickleball.org/acoustic-equipment/
B. 時間で調整する(日本で最も有効)
壁や建物を変えられなくても 時間だけは変えられる。
- 朝9:00以降に統一
- 夜は20:00まで
- 競技系の“強打が多い練習”は日中に設定
→ 騒音トラブルは「音量より時間帯」が原因のことが多い。
C. コートの配置・向きを工夫する(借りている人でも可能)
- ネットを住宅側に向けない
- 待機・談笑スペースを住宅から遠ざける
- 屋内は壁から距離を取る
→ 配置を変えるだけでも音の伝達は大きく変わる。
D. 防音グッズを“後付け”で使う(許可が取りやすい)
壁を勝手にいじれなくても、後付けできる吸音アイテムがたくさんあります。
▽ 運営側が導入しやすい
- フェンスに簡易吸音シートを結束バンドで固定
- 体育館の壁に吸音カーテンを吊る
- キャンプ用マットや衝撃吸収パネルを壁に立てかける
- コート部分だけラバーマットにして跳ね返り音を減らす
▽ 借りて使う人でもできる
- ポータブル吸音パネルを持ち込む
- 住宅のある方向にパーテーションを置く
- ベンチは、家がある方向に向けて置かない
- ラリー練習の場所を住宅と逆側に設定
これらは 施設の構造を変えないので、許可が取りやすい。
3. 「日本型チェックリスト」
【屋外:新設・運営向け】
□ ネットを住宅側に向けていない
□ 待機・談笑スペースは住宅から離している
□ 利用時間を掲示している
□ 静音用具の案内(推奨 or 指定)
□ フェンスに吸音対策
□ 住民説明文を事前準備
【屋内:体育館向け】
□ 壁からコートを離す
□ カーテン・吊りパネルの追加
□ 静音用具の案内(推奨 or 指定)
□ 大声のコールを控える掲示
□ 時間帯での利用分け(ピックルボールは、プレーレベルによって音の大きさが大きく変わるため、時間帯で「初心者向け/競技向け」を分けると、騒音トラブルを大幅に減らせます。
朝・夕方など静かな時間帯は初心者中心、日中は競技者中心にする運用が現実的)
【借りて使う人向け】
□ 静音用具の案内(推奨 or 指定)
□ ベンチの配置を工夫(住宅側に置かない)
□ 強打練習は日中
□ 朝夕は静かなメニュー(音の大きさは練習内容で大きく変わるため、朝や夕方などの静かな時間帯はサーブ練習やミニラリーなど“音の小さい練習”に、
日中は強打・スマッシュなど“音の大きい練習”に分けることで、施設を無理なく運用しながら騒音トラブルを減らすことができます。)
4. そのまま貼れる「掲示テンプレ」集
テンプレ①:コート入口の基本掲示
ピックルボールご利用のみなさまへ
このコートは、近隣の方の生活環境に配慮しながら運用しています。
ご利用の際は、次の点にご協力ください。・利用時間:朝9時〜夜20時まで
・大きな声での会話や応援は控えめにお願いします
・待機・談笑は、コート脇のベンチ付近でお願いします
・ボール・パドルは、できるだけ静かなものをお使いくださいみなさまのご理解とご協力をお願いいたします。
○○市(町)○○公園管理事務所
連絡先:000-000-0000
テンプレ②:時間ルールをはっきりさせたいとき
【ピックルボールコート利用時間のご案内】
近隣への騒音を防ぐため、ピックルボールの利用時間を次の通りとします。
・平日:朝9時〜夜20時
・土日祝:朝9時〜夜19時上記以外の時間帯のプレーはできません。
ルールを守っていただけない場合は、コートの一時閉鎖や
利用方法の見直しを行うことがあります。○○市(町)スポーツ振興課
連絡先:000-000-0000
テンプレ③:静音用具についてのお知らせ
【用具についてのお願い】
この施設では、近隣への音の影響を減らすため、
できるだけ静かな用具のご利用をお願いしています。・ボール:やわらかいタイプ(静音ボール)の使用を推奨します
・パドル:金属音の出にくいもの、静音タイプのご利用を推奨します
・カバーやシート:パドルに取り付ける静音カバーの使用も歓迎です用具選びに迷った場合は、スタッフにお声がけください。
○○体育館/○○クラブ
テンプレ④:予約ページに入れる一文
【ご利用時のお願い】
このコートは、近隣への騒音に配慮して運用しています。
ご利用中は 大声での会話・応援は控えめに お願いします。待機・談笑は コート脇のベンチ付近 をご利用ください。
プレー中も、必要以上に強い打音や連続した強打はお控えください。利用時間:9:00〜20:00
時間外の利用はできません。安全で快適な環境づくりにご協力をお願いいたします。
【運営】◯◯◯(団体名)
【お問い合わせ】◯◯◯(メール or 電話)
テンプレ⑤:近隣住民向けの事前案内(チラシ・回覧板用)
近隣のみなさまへ
〇〇公園ピックルボールコート運用のお知らせこのたび、〇〇公園内でピックルボールコートの運用を開始します。
【運用方針】
・利用時間:朝9時〜夜20時
・静かなボール・パドルの使用を推奨
・待機・談笑スペースを住宅から離れた場所に設置
・ルール掲示によるマナー啓発近隣のみなさまにご不便のないよう、音への配慮を行いながら運営いたします。
お気づきの点がございましたら、下記までご連絡ください。○○市(町)スポーツ振興課
連絡先:000-000-0000
受付時間:平日9:00〜17:00
ピックルボールは、年齢も経験も関係なく、誰でも一緒に楽しめる素晴らしいスポーツです。
だからこそ「音の問題」をきちんと扱うことは、
ピックルボールを広めるための“ブレーキ”ではなく、
もっと気持ちよく、もっと長くプレーできる未来をつくるための“アクセル” だと私たちは考えています。
今回まとめた対策は、どれも大がかりな工事をしなくても始められる、
日本の現場に合わせた“現実的な工夫”ばかりです。
もし「まず何から静音対策を始めればいい?」と迷うなら、パドルにはれる静音カバーを試してみるのがおすすめです。
ルール変更も設備工事も必要なく、
今日から誰でも使えて、打球音をしっかり減らしてくれる “いちばん手軽な静音対策” です。
コートを使う人も、近くで暮らす人も、みんなが気持ちよく過ごせる環境づくりの第一歩として、
ぜひ静音用具を上手に取り入れてみてください。

※画像参照:USA Pickleball 静音カテゴリー一覧:パドルカバー/スリーブ/オーバーレイ
小さな取り組みの積み重ねが、
「安心して楽しめるコート」を作り、
それがやがて「ピックルボールが自然に受け入れられる街」を育てていきます。
あなたの地域のコートが、
これからピックルボールを始める人にも、ずっと楽しんでいる人にも、
心地よい場所になりますように。
